【小話】線香花火

誰かに会いたいと思うなんていつぶりだろうか。

自宅の作業机に向かい、椅子の上で片膝を抱えながらボクは自分の中に浮かんだ言葉を反芻する。

誰かに会いたいなんて…


この数か月、ボクは自宅で一人きりで過ごしていた。
世情を鑑みて外出を控えていたためだ。
メンテナンスも最低限のことは自分で行い、博士のところには行かずに済ませている。

もちろん、必要とあらばWEB会議ツールを使い、モニター越しには人と話している。
マスターコースの後輩たちとは3日に1回の頻度でビデオ通話。

自宅にいる時間が増えたことで、ナツキは料理をする機会が増えたみたいだ。
写真や実物をよく見せてくれる。そのたびにショウが褒めながらも、密かにほっとしているのをボクは気付いている。
オンラインなら試食させられることがないからね。

ショウはショウでリュウヤの出ている作品を見ながらトレーニングを積んでいるらしく、この数か月で体格が10%ほど大きくなっている。
残念ながら身長はそのままだけど。
そんなショウのことをナツキは「ぎゅー」したくてたまらない様子だ。これにもショウは安堵していることも気付いている。

そして二人ともいつも、ボクのことを気遣ってくれている。
何か足りないものはないか。おかしくなっているところはないか。寂しくはないか。一人でも大丈夫か。

「まったく。子供じゃないんだから」
ボクは毎回、二人にそう言って返す。

そのたびに二人が見せる表情に、ほんのわずかに何かが凝るような気がしている。

 

ある日のこと。
いつものように3人でビデオ通話していたら、ショウが一枚の画像を共有してきた。

スマホの画像整理してたら出てきたんだ、というその画像には、真っ黒い画面の中に小さな線香花火が3つ光っていた。

ちょうど去年の今頃、事務所のみんなでキャンプに出掛けた時。
夜の河原でボクとナツキとショウ、3人で遊んだ線香花火。
ボクと一緒にやりたいから、とナツキとショウがこっそり持ってきたのだ。

知識としては知っていたけれど、実際にやるとなるとなかなかうまくいかないことは往々にしてあり。
線香花火もその1つだった。
なるべく風が花火に当たらないように、と3人で小さな輪になってしゃがみ、地面に立てた小さなロウソクに火薬の部分を近づける。
ジュッ、と音を立てたあと、火薬は球のようになって火花を散らす。
大きく振ってしまったり、小さな輪になりすぎて二人にぶつかってしまったりして、最初の3本ほどはすぐに球が落ちてしまった。

ようやく匙加減が分かってきた5本目。
うまくいったら写真撮ろうぜ!とショウが提案した。
うわあ、しょうちゃん素敵です!とナツキが乗る。

「悪くはないかもね。でも、そのためには二人とも落ち着いて」
とボクが言ったら、お前もな!とショウが笑った。

そしてボクたちはほぼ同じタイミングで火をつけた。

 

「また、やりたいな、線香花火」
自然と言葉が口をついて出た。
「また、やりたい。ナツキとショウと一緒に」

会いたいな、二人に。


この世界にボクがうまれてから、一人でいる時間も、限られた人としか接していない時間もかなりあった。
その時はそれが当たり前だったし、それが自然だった。けれど。

いつからか、ボクは誰かと「会いたい」と思う感情を手に入れた。
会えなければ「寂しい」、会えたら「嬉しい」。
いつも通話を終える前、「子供じゃないんだから」と返した時に感じる凝ったナニカは、たぶん「寂しい」という気持ちだと思う。

二人は俺たちもやりたい!またやりましょう!冬になったとしても3人で!と盛り上がっていた。
「冬に線香花火なんかやったら、風が強くて消えちゃうよ?それに二人とも寒さで大変なんじゃない?」
ボクはいつものように溜息交じりで返したけれど。

通話を終えて、静かになった部屋の中で一人、ボクは目を閉じた。
ボクの中で展開されるのは、スノーボードに行った時の格好をしたナツキとショウとボクが、小さな輪になって線香花火をしているビジョン。
冬の凛とした空気の中で、小さな火花はパチパチと広がる。
近くには寒さで少し赤みを帯びた二人の笑顔。そして、二人の目に映っているだろうボクも、きっと笑っている。

その情景があんまり綺麗で、ボクはナニカが凝るよりも、目頭が熱くなるような感覚を憶えた。

 

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初めてトラビで小話を書きました。

診断メーカーで出てきたお題

藍のお話は
「誰かに会いたいと思うなんていつぶりだろうか」で始まり「あんまり綺麗で、目頭が熱くなった」で終わります。
#こんなお話いかがですか #shindanmaker
https://shindanmaker.com/804548

 こちらを元に、今のコロナの状態と去年のシャニライ撮影にあったキャンプの話を詰めてこんな感じになりました。いろいろ捏造すみません。

ちなみに写真は明るさ調整失敗して、3人の顔はほとんど写らず花火だけが綺麗に写ってる自撮り、という想定です。

 

久し振りに小話書いて楽しかったです。

気が向いたらまた。