藍ちゃんBD小話【おめでとう、ありがとう】

「失礼します。美風くん、スタッフさんから先に打ち合わせをお願いしたいと言われたんだけど大丈夫?」
楽屋のドアが2回ノックされ、顔を出したチームマネージャーにそう言われて、藍は読んでいた台本から顔を上げた。
「はい」
「たぶんそのまま後半の収録に入ると思うから、そのつもりで」
「わかりました」
台本を閉じ、テーブルの上に置くと藍は席を立ち、スタッフとともに部屋を後にする。
「………」
その姿を、嶺二はメイクを直す鏡越しに、蘭丸は支給された弁当を食べながら、そしてカミュは持参した桜餅を食べながら見送っていた。

 

春の改変時期に向けた特別バラエティ番組のスタジオ撮影。今回は4人揃っての出演。
今はその撮影の休憩中である。

 

ぱたん、とドアが閉まる。
嶺二が立ち上がり素早くドアに近づくと、耳をそばだてる。
「……大丈夫、アイアイ行ったみたい」
そして蘭丸とカミュに向き直り、
「よぉーし、作戦決行!ランラン、ミューちゃん、予定通り準備スタート!」
と高らかに宣言した。
「ばっ、声がでけぇんだよ!気付かれたらどうする!」
「黒崎、お前の声も大概だな。これだから配慮のない愚民は」
「あ゛?」
「はいはいはい、ケンカしなーいの!今日はそれよりアイアイのお祝い。ほら、二人とも早く飾りつけしないと、ぼくたちも撮影始まっちゃうよ」
ちっ、とお互い舌打ちしつつも、嶺二が取り出した紙袋からそれぞれ飾り付けのためのアイテムを取り出した。
紙でできた花や輪つなぎ、魚や貝、ヒトデなど海の生き物を模した飾り…ベタなもので楽屋の中が飾られていく。
「仕上げはこれっと!」
嶺二が「HAPPY BIRTHDAY」の文字の風船を鏡に貼り付け、満足げに笑った。

 

3月1日。
この日に4人揃っての収録が入ったと分かり、嶺二は蘭丸とカミュに声をかけた。
「アイアイをサプライズでお祝いしちゃお!」
翌日の仕事の入りが早いメンバーもいるため大々的なお祝いはできないけれど、収録終わりの楽屋を借りてサプライズでお祝いしよう…そんな話だった。
部屋を飾るアイテムは嶺二が準備し、蘭丸はクラッカーを持参、ケーキはカミュが調達し既に楽屋の冷蔵庫に入っている。
スタッフにも協力を要請した。休憩中、早めに藍を連れ出してもらってその間に楽屋内を準備し、収録後も藍より先に3人が楽屋に戻りスタンバイ。
最後に戻ってきた藍を驚かせよう…という流れになっている。
「ここまでは完璧☆」
「そうだな」
「ああ」
珍しく3人の意見が一致した頃、楽屋のドアがノックされた。
顔を出したのは4人の現場マネージャーだ。
「そろそろ後半の収録始まりそうですけど、準備大丈夫ですか?」
当然、マネージャーにも今日のこのサプライズは伝えてある。
「あっ、はーい!大丈夫でっす!」
嶺二はそう返事をして、ドアに向かいかけたところで二人の腕を掴んだ。
「ランラン、ミューちゃん」
2人が嶺二に向き直る。
「収録もバッチリ決めて、アイアイのお祝いもめいっぱい楽しもう!」
「おう」
「当然だ」
「マネージャーも、この部屋アイアイにバレないようによろしくね」
「了解しました!」
いってらっしゃい、と3人を送り出し、マネージャーは楽屋に入る。
「さて、と」
そうつぶやいて、部屋の片隅に置いてある荷物に手をかけた。

 


「本日は以上になりまーす!皆さんお疲れ様でした!」
番組ADの声が響き渡る。
後半の収録も滞りなく終了し、出演者たちがバラバラとスタジオから退出していく。
「お疲れ様!」
スタジオの隅で見学していたマネージャーが4人に声をかけた。
「マネージャー!お疲れ様です!」
嶺二が返すと同時に、マネージャーに目くばせをする。軽く頷いたマネージャーは
「美風くん、ごめんちょっとだけいいかな?プロデューサーから次の番組にもって話が来てて…」
これも事前の打ち合わせ通り。
「分かりました」
承諾する藍に、嶺二が声をかけた。
「じゃあぼくたちは先に楽屋に戻ってるね~」
揃ってスタジオを後にする3人の姿を、藍は見送る。
「マネージャー」
目線はそのままに、藍が口を開く。
「大丈夫です」
マネージャーの言葉に、藍は口角を上げた。

 


「さあいよいよサプライズの始ま……あれ?」
楽屋に戻り、意気揚々とドアを開けた嶺二は、楽屋に入ったところで足を止めた。
おのずと後ろから蘭丸、カミュがぶつかってくる。
「「おい!」」
嶺二に文句を言おうとしたところで、二人も楽屋の中に違和感を感じてその場に立ち止まる。

 

休憩中、嶺二が飾り付けた
「HAPPY BIRTHDAY」
の風船の下に。

 

THANKS A LOT!

 

色紙で作られた文字が貼られている。
更に、部屋の中心…休憩中、蘭丸が弁当を食べたりカミュが桜餅を食べたりしていたテーブルの上には、それぞれ深緑・深紅・水色の包装紙に包まれた「何か」が置かれていた。

 

その時。

 

ぱんっ

 

乾いた破裂音がした。
3人が振り返ると

 

「誕生日、アリガトウ」

 

鳴らし終えたクラッカーを持った藍が、ニヤリとしながらドアのところに立っていた。

 

「サプライズ、大成功だね。…この場合は『逆サプライズ』かな?」
唖然とする3人に、藍は続ける。
「少し前からレイジがそわそわしてたでしょ。ちょうどボクの誕生日に4人揃っての収録が入ってたから、ここでサプライズするつもりなんだろうなってことは容易に想像がついた。
 だからボクからも3人に仕掛けてみようかなって。マネージャーにはレイジたちがお手伝いをお願いしているのも知ってて、更にこちらからもお願いしたんだ」
藍の後ろからマネージャーが顔を出し、ぺこりとお辞儀した。
そのまま藍は楽屋に入り、3人の前に歩みを進める。
「誕生日って、その日に生まれた人をお祝いする日だけど」
それだけじゃなくて。
「ボクをうんでくれた人、ボクに出会ってくれた人、関わってくれた人、みんなに感謝する日でもあるよね。だから」

 


Thanks a lot.
誕生日、アリガトウ。

 


藍が言い終えたあとも、楽屋の中は沈黙が続いた。
「ちょっと、何か言ってよ。…恥ずかしいんだけど」
口をすぼめて言う藍に対し
「…ふっ、一本取られたな」
最初に口を開いたのはカミュだった。
「ちっ、逆サプライズなんて手の込んだことしやがって」
蘭丸もそれに続く。そして。
「…アイアイ~~~!!!!」
「ちょっとレイジ!突然抱きつかないでよ!」
「こんなに大人になって…お兄さんは嬉しい~~~!!お誕生日おめでと~~~!!」
「離れてってば!」

 

「それじゃ、改めて」
アイアイ、ハッピーバースデイ!
ハッピーバースデイ、藍。
ハッピーバースデイ、美風。

 

「……ありがとう。これからも、よろしく」

 

男4人の、ささやかなバースデイパーティーが始まった。