藍ちゃんBD小話【ありがとう、おめでとう】

3月1日に4人でバラエティ収録、とマネージャーから連絡が来たのは、その日から数えてちょうど2週間前。


そのあとくらいからレイジが何となくコソコソ動いているのは確認できていたし、彼の性格から考えてボクの誕生日当日にサプライズを仕掛けてこないわけがない、と判断。
サプライズ対象の本人に勘づかれたらサプライズでも何でもないと思うけど…。

 

そんなことを考えていた頃、曲作りの参考で「誕生日」を題材にした歌を無作為に選んでいくつか聞いていた。
そこでボクは気付いたんだ。
誕生日の歌には「おめでとう」と同じくらい、「ありがとう」という感謝の言葉が綴られていることに。

 

「ありがとう」が向けられる方向は様々だった。
うんでくれた両親。
今までに出会った人たち。
周囲にいてくれる人たち。
出会えたことそのもの…。

 

一言でまとめてしまえば、「みんな」。

 

なるほどね。
「おめでとう」って言ってくれることに対してはもちろんだけど、それだけじゃなくてボクから率先して「ありがとう」って言うのも良いかもしれない。
だったら…ボクから「ありがとう」の逆サプライズをするのもアリなのかな?

 

そう思いついた途端、ボクの中で「逆サプライズプロジェクト」が勢いよく回り始めた。
レイジたちはきっとマネージャーにもヘルプを依頼するだろうから、それを見越して先にこちらからオーダーを伝えておく。
当日の詳細な収録スケジュールが出たタイミングで、案の定レイジはマネージャーに計画内容を伝えてきた。
休憩中にボクだけ先に楽屋から連れ出し、その間に3人が室内を飾り付ける。
収録後もボクを足止めして3人が先に楽屋へ戻り、ボクが戻ったところでサプライズパーティースタート。
何ともベタな展開だ。

 

だから、ボクはマネージャーに頼んだんだ。
3人が休憩を終えて楽屋を出たら、ボクが用意した「THANKS A LOT!」の文字の飾りと、3人へのプレゼントを楽屋に準備してほしいって。
荷物はあらかじめボクが楽屋に運び入れておいて、マネージャーに伝えた。
飾り付けについては3人がどういう風にするかが分からなかったからマネージャーにお任せだったけれど、レイジの荷物に文字の形をした風船が見えたから
「もし『HAPPY BIRTHDAY』っていう装飾があったら、なるべくその近くにボクの文字も飾って」
とだけ依頼した。どんな仕上がりになっているかはボクも楽しみだった。

 

収録が終わって、予定通りマネージャーに呼び止められて。
「マネージャー」
いそいそと楽屋に戻っていく3人を見送りながらマネージャーに声をかけた。
「大丈夫です」
ボクは嬉しくなって、思わず笑ってしまった。
「あと、これ。どうぞ」
マネージャーから差し出されたのは、何の変哲もない小さなクラッカー。
「僕からのプレゼント。素敵な誕生日を」
「…ありがとう」
笑顔のままクラッカーを受け取って、僕は
「さて、そろそろ行こうか」
3人がボクを待つ楽屋へと向かった。

 

 

ぱんっ。
クラッカーの乾いた破裂音が響く。

 

「誕生日、アリガトウ」

 

面食らっている3人と、いたずらが成功した時の顔をしているボク。
その姿を映し出している鏡には、「HAPPY BIRTHDAY」の文字の風船と、「THANKS A LOT!」の文字が貼り付けてある。
完璧なシチュエーション。
逆サプライズ大成功。

 

結局その後、レイジに抱きつかれ、ランマルには頭をぐしゃぐしゃと撫でられ、カミュには「貴様に用意したケーキは俺がすべて食してやる」と言われた(もちろん冗談だけど)。
翌日の現場入りが早いメンバーもいたから、楽屋でのパーティーは30分ほどの短いものだったけれど、3人から抱えきれないほどの「おめでとう」をもらい、ボクもたくさんの「ありがとう」を3人に渡せたと思っている。

 


それから。

 

帰宅してPCを開く。
出かける前に送っておいた、いくつかの「誕生日アリガトウ」メールに返信が来ていた。
ナツキやショウ、博士、シャイニング早乙女…。
一つひとつをゆっくり読んでいたところに、新着メールの通知が表示される。
他のメールをすべて読み終えてから、そのメールを開いた。

 

「君から『ありがとう』なんて言われるとは思ってもいなかったよ。
 誕生日『おめでとう』」

 

文末にイニシャルだけ書かれたそのメールも、他のメールと同様にプロテクトをかける。
そしてそのまま、PCを閉じた。

 

どんな「おめでとう」も「ありがとう」も、ボクにとっては等しく大切な「言葉」であり「思い出」だ。
ボクはまた、新しい「思い出」という宝物を手に入れたんだ。
それでも、やっぱり。

 

アイアイ、ハッピーバースデイ!
ハッピーバースデイ、藍。
ハッピーバースデイ、美風。

 

特別な3人の言葉を反芻しながら、ボクは持ち帰ったプレゼントの紐を解きはじめた。

 

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藍ちゃんお誕生日おめでとう!

いつかやりたいと思っていたBD小話、ようやく書けました…!

しかも2本。SideA、SideBみたいな形になりましたが(私それやりがち)ほんと間に合ってよかった!嬉しい!

 

ちなみに最後に届いた「メール」の送り主は、たぶんご想像の通りだと思いますが、藍ちゃんの元になった「彼」です。

藍ちゃんは「彼」にも、おめでとうとありがとうを伝えたんじゃないかな、と思っています。今だからできることだろうな、と。

 

たくさんのひとに「おめでとう」をもらって、たくさんの「ありがとう」を返す素敵な誕生日になりますように。

 

(BGM)

「HAPPY BIDTHDAY」TOKIO

「Happy Happy Birthday!」Masayuki Sakamoto