藍ちゃんBD小話【ありがとう、おめでとう】

3月1日に4人でバラエティ収録、とマネージャーから連絡が来たのは、その日から数えてちょうど2週間前。


そのあとくらいからレイジが何となくコソコソ動いているのは確認できていたし、彼の性格から考えてボクの誕生日当日にサプライズを仕掛けてこないわけがない、と判断。
サプライズ対象の本人に勘づかれたらサプライズでも何でもないと思うけど…。

 

そんなことを考えていた頃、曲作りの参考で「誕生日」を題材にした歌を無作為に選んでいくつか聞いていた。
そこでボクは気付いたんだ。
誕生日の歌には「おめでとう」と同じくらい、「ありがとう」という感謝の言葉が綴られていることに。

 

「ありがとう」が向けられる方向は様々だった。
うんでくれた両親。
今までに出会った人たち。
周囲にいてくれる人たち。
出会えたことそのもの…。

 

一言でまとめてしまえば、「みんな」。

 

なるほどね。
「おめでとう」って言ってくれることに対してはもちろんだけど、それだけじゃなくてボクから率先して「ありがとう」って言うのも良いかもしれない。
だったら…ボクから「ありがとう」の逆サプライズをするのもアリなのかな?

 

そう思いついた途端、ボクの中で「逆サプライズプロジェクト」が勢いよく回り始めた。
レイジたちはきっとマネージャーにもヘルプを依頼するだろうから、それを見越して先にこちらからオーダーを伝えておく。
当日の詳細な収録スケジュールが出たタイミングで、案の定レイジはマネージャーに計画内容を伝えてきた。
休憩中にボクだけ先に楽屋から連れ出し、その間に3人が室内を飾り付ける。
収録後もボクを足止めして3人が先に楽屋へ戻り、ボクが戻ったところでサプライズパーティースタート。
何ともベタな展開だ。

 

だから、ボクはマネージャーに頼んだんだ。
3人が休憩を終えて楽屋を出たら、ボクが用意した「THANKS A LOT!」の文字の飾りと、3人へのプレゼントを楽屋に準備してほしいって。
荷物はあらかじめボクが楽屋に運び入れておいて、マネージャーに伝えた。
飾り付けについては3人がどういう風にするかが分からなかったからマネージャーにお任せだったけれど、レイジの荷物に文字の形をした風船が見えたから
「もし『HAPPY BIRTHDAY』っていう装飾があったら、なるべくその近くにボクの文字も飾って」
とだけ依頼した。どんな仕上がりになっているかはボクも楽しみだった。

 

収録が終わって、予定通りマネージャーに呼び止められて。
「マネージャー」
いそいそと楽屋に戻っていく3人を見送りながらマネージャーに声をかけた。
「大丈夫です」
ボクは嬉しくなって、思わず笑ってしまった。
「あと、これ。どうぞ」
マネージャーから差し出されたのは、何の変哲もない小さなクラッカー。
「僕からのプレゼント。素敵な誕生日を」
「…ありがとう」
笑顔のままクラッカーを受け取って、僕は
「さて、そろそろ行こうか」
3人がボクを待つ楽屋へと向かった。

 

 

ぱんっ。
クラッカーの乾いた破裂音が響く。

 

「誕生日、アリガトウ」

 

面食らっている3人と、いたずらが成功した時の顔をしているボク。
その姿を映し出している鏡には、「HAPPY BIRTHDAY」の文字の風船と、「THANKS A LOT!」の文字が貼り付けてある。
完璧なシチュエーション。
逆サプライズ大成功。

 

結局その後、レイジに抱きつかれ、ランマルには頭をぐしゃぐしゃと撫でられ、カミュには「貴様に用意したケーキは俺がすべて食してやる」と言われた(もちろん冗談だけど)。
翌日の現場入りが早いメンバーもいたから、楽屋でのパーティーは30分ほどの短いものだったけれど、3人から抱えきれないほどの「おめでとう」をもらい、ボクもたくさんの「ありがとう」を3人に渡せたと思っている。

 


それから。

 

帰宅してPCを開く。
出かける前に送っておいた、いくつかの「誕生日アリガトウ」メールに返信が来ていた。
ナツキやショウ、博士、シャイニング早乙女…。
一つひとつをゆっくり読んでいたところに、新着メールの通知が表示される。
他のメールをすべて読み終えてから、そのメールを開いた。

 

「君から『ありがとう』なんて言われるとは思ってもいなかったよ。
 誕生日『おめでとう』」

 

文末にイニシャルだけ書かれたそのメールも、他のメールと同様にプロテクトをかける。
そしてそのまま、PCを閉じた。

 

どんな「おめでとう」も「ありがとう」も、ボクにとっては等しく大切な「言葉」であり「思い出」だ。
ボクはまた、新しい「思い出」という宝物を手に入れたんだ。
それでも、やっぱり。

 

アイアイ、ハッピーバースデイ!
ハッピーバースデイ、藍。
ハッピーバースデイ、美風。

 

特別な3人の言葉を反芻しながら、ボクは持ち帰ったプレゼントの紐を解きはじめた。

 

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藍ちゃんお誕生日おめでとう!

いつかやりたいと思っていたBD小話、ようやく書けました…!

しかも2本。SideA、SideBみたいな形になりましたが(私それやりがち)ほんと間に合ってよかった!嬉しい!

 

ちなみに最後に届いた「メール」の送り主は、たぶんご想像の通りだと思いますが、藍ちゃんの元になった「彼」です。

藍ちゃんは「彼」にも、おめでとうとありがとうを伝えたんじゃないかな、と思っています。今だからできることだろうな、と。

 

たくさんのひとに「おめでとう」をもらって、たくさんの「ありがとう」を返す素敵な誕生日になりますように。

 

(BGM)

「HAPPY BIDTHDAY」TOKIO

「Happy Happy Birthday!」Masayuki Sakamoto

 

藍ちゃんBD小話【おめでとう、ありがとう】

「失礼します。美風くん、スタッフさんから先に打ち合わせをお願いしたいと言われたんだけど大丈夫?」
楽屋のドアが2回ノックされ、顔を出したチームマネージャーにそう言われて、藍は読んでいた台本から顔を上げた。
「はい」
「たぶんそのまま後半の収録に入ると思うから、そのつもりで」
「わかりました」
台本を閉じ、テーブルの上に置くと藍は席を立ち、スタッフとともに部屋を後にする。
「………」
その姿を、嶺二はメイクを直す鏡越しに、蘭丸は支給された弁当を食べながら、そしてカミュは持参した桜餅を食べながら見送っていた。

 

春の改変時期に向けた特別バラエティ番組のスタジオ撮影。今回は4人揃っての出演。
今はその撮影の休憩中である。

 

ぱたん、とドアが閉まる。
嶺二が立ち上がり素早くドアに近づくと、耳をそばだてる。
「……大丈夫、アイアイ行ったみたい」
そして蘭丸とカミュに向き直り、
「よぉーし、作戦決行!ランラン、ミューちゃん、予定通り準備スタート!」
と高らかに宣言した。
「ばっ、声がでけぇんだよ!気付かれたらどうする!」
「黒崎、お前の声も大概だな。これだから配慮のない愚民は」
「あ゛?」
「はいはいはい、ケンカしなーいの!今日はそれよりアイアイのお祝い。ほら、二人とも早く飾りつけしないと、ぼくたちも撮影始まっちゃうよ」
ちっ、とお互い舌打ちしつつも、嶺二が取り出した紙袋からそれぞれ飾り付けのためのアイテムを取り出した。
紙でできた花や輪つなぎ、魚や貝、ヒトデなど海の生き物を模した飾り…ベタなもので楽屋の中が飾られていく。
「仕上げはこれっと!」
嶺二が「HAPPY BIRTHDAY」の文字の風船を鏡に貼り付け、満足げに笑った。

 

3月1日。
この日に4人揃っての収録が入ったと分かり、嶺二は蘭丸とカミュに声をかけた。
「アイアイをサプライズでお祝いしちゃお!」
翌日の仕事の入りが早いメンバーもいるため大々的なお祝いはできないけれど、収録終わりの楽屋を借りてサプライズでお祝いしよう…そんな話だった。
部屋を飾るアイテムは嶺二が準備し、蘭丸はクラッカーを持参、ケーキはカミュが調達し既に楽屋の冷蔵庫に入っている。
スタッフにも協力を要請した。休憩中、早めに藍を連れ出してもらってその間に楽屋内を準備し、収録後も藍より先に3人が楽屋に戻りスタンバイ。
最後に戻ってきた藍を驚かせよう…という流れになっている。
「ここまでは完璧☆」
「そうだな」
「ああ」
珍しく3人の意見が一致した頃、楽屋のドアがノックされた。
顔を出したのは4人の現場マネージャーだ。
「そろそろ後半の収録始まりそうですけど、準備大丈夫ですか?」
当然、マネージャーにも今日のこのサプライズは伝えてある。
「あっ、はーい!大丈夫でっす!」
嶺二はそう返事をして、ドアに向かいかけたところで二人の腕を掴んだ。
「ランラン、ミューちゃん」
2人が嶺二に向き直る。
「収録もバッチリ決めて、アイアイのお祝いもめいっぱい楽しもう!」
「おう」
「当然だ」
「マネージャーも、この部屋アイアイにバレないようによろしくね」
「了解しました!」
いってらっしゃい、と3人を送り出し、マネージャーは楽屋に入る。
「さて、と」
そうつぶやいて、部屋の片隅に置いてある荷物に手をかけた。

 


「本日は以上になりまーす!皆さんお疲れ様でした!」
番組ADの声が響き渡る。
後半の収録も滞りなく終了し、出演者たちがバラバラとスタジオから退出していく。
「お疲れ様!」
スタジオの隅で見学していたマネージャーが4人に声をかけた。
「マネージャー!お疲れ様です!」
嶺二が返すと同時に、マネージャーに目くばせをする。軽く頷いたマネージャーは
「美風くん、ごめんちょっとだけいいかな?プロデューサーから次の番組にもって話が来てて…」
これも事前の打ち合わせ通り。
「分かりました」
承諾する藍に、嶺二が声をかけた。
「じゃあぼくたちは先に楽屋に戻ってるね~」
揃ってスタジオを後にする3人の姿を、藍は見送る。
「マネージャー」
目線はそのままに、藍が口を開く。
「大丈夫です」
マネージャーの言葉に、藍は口角を上げた。

 


「さあいよいよサプライズの始ま……あれ?」
楽屋に戻り、意気揚々とドアを開けた嶺二は、楽屋に入ったところで足を止めた。
おのずと後ろから蘭丸、カミュがぶつかってくる。
「「おい!」」
嶺二に文句を言おうとしたところで、二人も楽屋の中に違和感を感じてその場に立ち止まる。

 

休憩中、嶺二が飾り付けた
「HAPPY BIRTHDAY」
の風船の下に。

 

THANKS A LOT!

 

色紙で作られた文字が貼られている。
更に、部屋の中心…休憩中、蘭丸が弁当を食べたりカミュが桜餅を食べたりしていたテーブルの上には、それぞれ深緑・深紅・水色の包装紙に包まれた「何か」が置かれていた。

 

その時。

 

ぱんっ

 

乾いた破裂音がした。
3人が振り返ると

 

「誕生日、アリガトウ」

 

鳴らし終えたクラッカーを持った藍が、ニヤリとしながらドアのところに立っていた。

 

「サプライズ、大成功だね。…この場合は『逆サプライズ』かな?」
唖然とする3人に、藍は続ける。
「少し前からレイジがそわそわしてたでしょ。ちょうどボクの誕生日に4人揃っての収録が入ってたから、ここでサプライズするつもりなんだろうなってことは容易に想像がついた。
 だからボクからも3人に仕掛けてみようかなって。マネージャーにはレイジたちがお手伝いをお願いしているのも知ってて、更にこちらからもお願いしたんだ」
藍の後ろからマネージャーが顔を出し、ぺこりとお辞儀した。
そのまま藍は楽屋に入り、3人の前に歩みを進める。
「誕生日って、その日に生まれた人をお祝いする日だけど」
それだけじゃなくて。
「ボクをうんでくれた人、ボクに出会ってくれた人、関わってくれた人、みんなに感謝する日でもあるよね。だから」

 


Thanks a lot.
誕生日、アリガトウ。

 


藍が言い終えたあとも、楽屋の中は沈黙が続いた。
「ちょっと、何か言ってよ。…恥ずかしいんだけど」
口をすぼめて言う藍に対し
「…ふっ、一本取られたな」
最初に口を開いたのはカミュだった。
「ちっ、逆サプライズなんて手の込んだことしやがって」
蘭丸もそれに続く。そして。
「…アイアイ~~~!!!!」
「ちょっとレイジ!突然抱きつかないでよ!」
「こんなに大人になって…お兄さんは嬉しい~~~!!お誕生日おめでと~~~!!」
「離れてってば!」

 

「それじゃ、改めて」
アイアイ、ハッピーバースデイ!
ハッピーバースデイ、藍。
ハッピーバースデイ、美風。

 

「……ありがとう。これからも、よろしく」

 

男4人の、ささやかなバースデイパーティーが始まった。

【小話】かなしいとき

人は本当に悲しいとき、涙が出ないのだと知った。

「涙」という装置が実装されているか否かの問題ではない。
悲しい、という感情が限界値まで達すると、涙を流すという行為に辿り着く前に思考がフリーズする。
そして、今ここに至るまでの自分の感情を思い出してみた。

今日の仕事はバラエティ番組の収録。
スタジオに入ったところで番組スタッフから声をかけられた。
「美風さんおはようございます。プロデューサーから差し入れあるんで、楽屋に置いておきました!」
「ありがとうございます。今日もよろしくお願いします」
いつも通りの笑顔で挨拶を交わしたあと、スタッフはこう続けた。
「今日の差し入れ、紫雲庵のスイーツですよ!」
「えっ」
スタッフから聞いた和菓子の老舗の名前に、ボクは思わず声を上げた。
そこは、季節のフルーツを使ったゼリーが有名な店だったからだ。
普段差し入れをいただいてもほとんど食べることはないけれど、ほんの少しだけ胸が高鳴る気がした。
「美風さんも好きなんですね!さっき先に到着してたカミュさんにも伝えたら、満面の笑みで楽屋に向かわれましたよ」


そのあと、ボクはどんな顔で楽屋に向かったのかは記憶にない。
気が付いたら楽屋のドアを開けていて。
カミュ!」
今日の撮影を共にするメンバーの名前を叫んだけれど、そこには誰もいなかった。
テーブルの上には確かに「紫雲庵」と書かれた箱が置いてある。
しかもサイズから察するに、中身はゼリーで間違いないだろう。
早足でテーブルに近づいて、箱を開けようとして、ボクは箱の隣にあるものに気付いた。


「美風へ。ゼリーはいただいた。代わりにこれをやろう」


何が書いてあるのか、そして何が置いてあるのか、理解するまでにどれくらいの秒数を要しただろう。
そして、これが「悲しい」という感情なのか、「本当に悲しい」という感情なのかと、何度も反芻した。


テーブルには、メモと一緒にプリンが置いてあった。

 

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診断メーカーのお題で書いてみました。

 

藍のお話は
「人は本当に悲しいとき、涙が出ないのだと知った」で始まり「テーブルにメモと一緒にプリンが置いてあったから」で終わります。
#こんなお話いかがですか #shindanmaker
https://shindanmaker.com/804548 

 

プリン、という文字を見て「プリンじゃない!ゼリー!」って怒る藍ちゃんが見てみたいなと思ったところから30分くらいで書いた妄想小話です。

こういうギャグっぽいのを書いたのが久し振りなのですが、伝わるといいなあ…。

このあとの収録でデレラがどんな空気感になっていたのか、楽しみです(怖いもの見たさ?)。

 

読んでくださりありがとうございました!

【小話】Dear my...

「拝啓、愛しい人。どうしていますか」
「あなたがこの部屋を出てから1か月。ぼくはずっと、君の残していった思い出ばかりを追いかけています」
「最後はかける言葉もなくなっていったけれど、感謝の気持ちだけはずっと忘れていないよ」
「だからせめてその思いを届けたくて、今、こうして手紙をしたためています」
「どうか幸せに。そして、ぼくのことはもう思い出さなくていいよ…」

その言葉とともに、嶺二はペンを置いて本を閉じ、目を伏せた。

暗転。

一瞬の静けさのあとに訪れた、さざ波のような拍手。

次に照明がついた時、嶺二はステージの中央でいつもの表情に戻り、客席に向けて深々と一礼した。


ステージを終えて楽屋に戻ると、入口の前に見慣れた仲間の姿を見つけた。
「アイアイ!来てたんだ!」
夏物のジャケットに細身のパンツ、普段はかけていない度なしの眼鏡をかけた藍が、嶺二に向き直る。
「前の仕事が押して、最初5分くらい遅れちゃったけどね」
「いいよいいよ、来てくれただけで嬉しい!ありがとう、入って入って!」
嶺二は先に室内に入り、藍にソファをすすめると自分も鏡台前の椅子に座り込んだ。
「はあ~今日も疲れた~!」
「お疲れ様。面白かったよ、レイジの一人舞台」
「ほんとに!?アイアイに『面白かった』って言ってもらえるなんて…お兄さんは嬉しい!」
満面の笑みで椅子から立ち上がり、藍の向かいのソファに勢いよく座り込む。
翻り、藍はしかめっ面で後ずさった。
「ねえねえ、どこが面白かった?アイアイ的にはどこが一番よかった?」
「ちょっと、迫ってこないでよ。ていうか早くメイク落としたら?」
「はいはーい!」
嶺二は鼻歌を歌いながら、再び鏡台の前に戻った。


今回の嶺二の仕事は一人舞台。それもメインはほぼ朗読で進行する。
制作側からテーマをある程度決めていいと言われ、嶺二は「失恋」を題材に選んだ。
別れたけれど忘れられない相手を思い、「出せない手紙」を綴り重ねていく。

ステージ上はその「手紙」を綴りながら朗読し、時折パフォーマンスも混ぜながらゆっくりと進行していく。
普段はあまり見せないその語り口調や表情が好評を受け、客席数500の劇場は連日満員となっている。

2週間の公演期間も残り2日を残すところで、藍が観劇に来たのだった。
「ランランもミューちゃんもあんまり感想教えてくれなくてさ~。『観てるこっちが恥ずかしくなった』とか言うんだよ~?ひどくない?」
衣装を着替え、メイクも落とし完全にオフの状態に戻った嶺二がぼやく。
「それだけレイジのお芝居がよかったってことじゃない?」
藍がフォローを入れると
「えっ、そうかな?そうかな!」
嶺二は飛び跳ねるように藍の向かいに座る。
「ボクもよかったと思うよ。レイジってこういう恋愛するんだなって、いいデータが取れた」
「ずこーっ!えっ、そこー?」
思わずつんのめる嶺二に、藍はお構いなしに続ける。
「普段なかなか見られないでしょ、そういうの。でも、ひとつだけ気になったことがあるんだけど」
「なに?」
藍は気になったそのシーンを思い出すように、ゆっくりと目を閉じた。

「最後のセリフ。『どうか幸せに。そして、ぼくのことはもう思い出さなくていいよ…』」
「うん」
「なんで主人公は、『思い出さなくていい』なんて言うの?これだけの思い出を綴った手紙を書いてるってことは、自分のことを忘れないでほしい、覚えていてほしいっていう自己主張なんじゃないの?ここまで書いておいて『思い出さなくていい』って、ボクにはよく分からない」

ん~、と嶺二は天井を仰ぎながら言葉を探す。
「確かに忘れてほしくないんだけど、でも忘れてほしいんだよね。
 彼女が次の人と幸せでいてくれたらそれでいいって思うから。
 手紙を書いてるのは、どちらかというと主人公自身が忘れたくなくて、でも忘れないととも思っていて、そのジレンマを『手紙を書く」ってことで和らげてる感じかな」
なるほどね、と藍は頷いた。
「手紙って、読んでくれる相手のために書くものだと思ってたけど、自分のために書くこともあるんだ」
「そうそう、そんな感じ」
腑に落ちた様子の藍を見て、嶺二は少しだけ安堵した。しかし、「それでも」と藍は言葉を続ける。
「もしボクが手紙を書くとしたら、やっぱり最後は本当の気持ちを書くと思う」
ボクは、相手に忘れてほしくないから。


(痛いところを突かれた、かな…)
劇場からの帰り、嶺二は車で藍を自宅まで送り届けたあとで苦笑した。
アイアイの思いは時に真っ直ぐすぎて、少しツライ。ぼくだって言えるなら…。
「こんな苦労はしてない、か」
自嘲するようにひとりごちた。

 

そんなこともあったな。
嶺二はゆっくり目を開いた。

壁に掛けられた時計を見る。開演20分前。
モニターには客席内に入場するお客様の姿が映し出され、スピーカーからも開場時間中のざわめきが流れる。
楽屋には嶺二。鏡台前の台本には、一人芝居のタイトル。
ただ違うのは、表紙に書かれた公演期間。

初演から7年の年月を経て、今回の再演を迎えた。今日はその初日。
鏡に映る嶺二は初演の時より少しだけ顎に丸みを帯び、目尻にはわずかに皺が見える。
初演の時と同じ劇場、同じ楽屋。置かれている椅子や机は少し変わったけれど、基本的なレイアウトは同じまま。
この7年で変わらなかったこともある。けれど、いろいろな経験をして変わったことも多くある。
そんな中で今、再演をやることの意味を嶺二は考えていた。

今の自分だから、できる表現を。
伝えたい思いを。

楽屋を出る前、改めて台本の最後のページを確認する。


「拝啓、愛しい人。どうしていますか」
「あなたがこの部屋を出てから1か月。ぼくはずっと、君の残していった思い出ばかりを追いかけています」
「最後はかける言葉もなくなっていったけれど、感謝の気持ちだけはずっと忘れていないよ」
「だからせめてその思いを届けたくて、今、こうして手紙をしたためています」
「どうか幸せに。そして、僕のことはもう思い出さなくていい。だけど…」

嶺二はペンを置き本を閉じ、目を伏せた。
ステージが暗転するその刹那、目を伏せたまま嶺二は言葉をつづけた。

「また会えますようにと、願うほかないのだ」

 

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診断メーカーのお題、2作目。

 

嶺二のお話は 「拝啓、愛しい人。どうしていますか」で始まり「また会えますようにと願うほかないのだ」で終わります。

shindanmaker.com/804548

こちらで書いてみました。嶺二と藍ちゃんのお話です。

嶺二の『愛しい人』って誰にすればいい!?というところからスタートで、もっと直接的にれ  い  あ  いにしてもいいかな、とも思ったのですが、締めも言葉も含めて朗読劇のような一人芝居にしたらいいのでは!(ていうか私がそれを観たい!)と思いついたところからこんな感じになりました。

 

舞台の「再演」というのも私が好きだから、というのがそのまま出てますね笑。

同じ内容、同じキャストでも、流れた月日があることで解釈とかお芝居とかが少しずつ違ってて。その変化に触れた時、とてもワクワクして嬉しくなります。嶺二はそういうところ、すごくうまく表現しそうだな、と思ってます。

チケ争奪戦、大変そうですけどね!

 

読んでくださりありがとうございました。

【小話】線香花火

誰かに会いたいと思うなんていつぶりだろうか。

自宅の作業机に向かい、椅子の上で片膝を抱えながらボクは自分の中に浮かんだ言葉を反芻する。

誰かに会いたいなんて…


この数か月、ボクは自宅で一人きりで過ごしていた。
世情を鑑みて外出を控えていたためだ。
メンテナンスも最低限のことは自分で行い、博士のところには行かずに済ませている。

もちろん、必要とあらばWEB会議ツールを使い、モニター越しには人と話している。
マスターコースの後輩たちとは3日に1回の頻度でビデオ通話。

自宅にいる時間が増えたことで、ナツキは料理をする機会が増えたみたいだ。
写真や実物をよく見せてくれる。そのたびにショウが褒めながらも、密かにほっとしているのをボクは気付いている。
オンラインなら試食させられることがないからね。

ショウはショウでリュウヤの出ている作品を見ながらトレーニングを積んでいるらしく、この数か月で体格が10%ほど大きくなっている。
残念ながら身長はそのままだけど。
そんなショウのことをナツキは「ぎゅー」したくてたまらない様子だ。これにもショウは安堵していることも気付いている。

そして二人ともいつも、ボクのことを気遣ってくれている。
何か足りないものはないか。おかしくなっているところはないか。寂しくはないか。一人でも大丈夫か。

「まったく。子供じゃないんだから」
ボクは毎回、二人にそう言って返す。

そのたびに二人が見せる表情に、ほんのわずかに何かが凝るような気がしている。

 

ある日のこと。
いつものように3人でビデオ通話していたら、ショウが一枚の画像を共有してきた。

スマホの画像整理してたら出てきたんだ、というその画像には、真っ黒い画面の中に小さな線香花火が3つ光っていた。

ちょうど去年の今頃、事務所のみんなでキャンプに出掛けた時。
夜の河原でボクとナツキとショウ、3人で遊んだ線香花火。
ボクと一緒にやりたいから、とナツキとショウがこっそり持ってきたのだ。

知識としては知っていたけれど、実際にやるとなるとなかなかうまくいかないことは往々にしてあり。
線香花火もその1つだった。
なるべく風が花火に当たらないように、と3人で小さな輪になってしゃがみ、地面に立てた小さなロウソクに火薬の部分を近づける。
ジュッ、と音を立てたあと、火薬は球のようになって火花を散らす。
大きく振ってしまったり、小さな輪になりすぎて二人にぶつかってしまったりして、最初の3本ほどはすぐに球が落ちてしまった。

ようやく匙加減が分かってきた5本目。
うまくいったら写真撮ろうぜ!とショウが提案した。
うわあ、しょうちゃん素敵です!とナツキが乗る。

「悪くはないかもね。でも、そのためには二人とも落ち着いて」
とボクが言ったら、お前もな!とショウが笑った。

そしてボクたちはほぼ同じタイミングで火をつけた。

 

「また、やりたいな、線香花火」
自然と言葉が口をついて出た。
「また、やりたい。ナツキとショウと一緒に」

会いたいな、二人に。


この世界にボクがうまれてから、一人でいる時間も、限られた人としか接していない時間もかなりあった。
その時はそれが当たり前だったし、それが自然だった。けれど。

いつからか、ボクは誰かと「会いたい」と思う感情を手に入れた。
会えなければ「寂しい」、会えたら「嬉しい」。
いつも通話を終える前、「子供じゃないんだから」と返した時に感じる凝ったナニカは、たぶん「寂しい」という気持ちだと思う。

二人は俺たちもやりたい!またやりましょう!冬になったとしても3人で!と盛り上がっていた。
「冬に線香花火なんかやったら、風が強くて消えちゃうよ?それに二人とも寒さで大変なんじゃない?」
ボクはいつものように溜息交じりで返したけれど。

通話を終えて、静かになった部屋の中で一人、ボクは目を閉じた。
ボクの中で展開されるのは、スノーボードに行った時の格好をしたナツキとショウとボクが、小さな輪になって線香花火をしているビジョン。
冬の凛とした空気の中で、小さな火花はパチパチと広がる。
近くには寒さで少し赤みを帯びた二人の笑顔。そして、二人の目に映っているだろうボクも、きっと笑っている。

その情景があんまり綺麗で、ボクはナニカが凝るよりも、目頭が熱くなるような感覚を憶えた。

 

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初めてトラビで小話を書きました。

診断メーカーで出てきたお題

藍のお話は
「誰かに会いたいと思うなんていつぶりだろうか」で始まり「あんまり綺麗で、目頭が熱くなった」で終わります。
#こんなお話いかがですか #shindanmaker
https://shindanmaker.com/804548

 こちらを元に、今のコロナの状態と去年のシャニライ撮影にあったキャンプの話を詰めてこんな感じになりました。いろいろ捏造すみません。

ちなみに写真は明るさ調整失敗して、3人の顔はほとんど写らず花火だけが綺麗に写ってる自撮り、という想定です。

 

久し振りに小話書いて楽しかったです。

気が向いたらまた。

オンラインオタ会

何となく久し振りに書いてみよう、と思ったのは、ここ最近の情勢なんかを残しておいてもいいかな、という気持ちになってきたから、かな?と思っています。

こんにちは、お久し振りです。

コロナに絡んで在宅勤務になってから早一ヶ月。
週の半分はほんとに家から一歩も出ずに、家で過ごしています。
そして「名ばかり」の在宅勤務ではなく、ガチでフルタイム(+時々残業)でお仕事してます。タイムカードつけてますけど月の残業時間は出勤してる月とあんまり変わらないっていう。もはや交通費半分でいいからこの先も在宅がいいです…笑(電気代と通信費と月に何回か出勤する交通費を…と考えると定期代の半分くらいでおさまるまず)


そんななか、次々と現場が潰されていき、現場大好きオタクのわたくしはしょげ返っておりましたが。

今流行りの?オンラインオタ会をすることにしました。

言うて、普段から親しくさせていただいているお友達とサシでただひたすら喋り続けるという、普段はルノ○ールでやってることをLINEやZOOMに変えただけなんですが、おうちだからできることもいっぱいあって楽しいですね!

普段外には持ち出さないオタクグッズをお互いに見せ合う。
(クッションとか枕カバーとか)

同じ円盤を見ながら「○分○秒で止めて!ここからコマ送りで見て!」と推しの見せ場をお互いにプレゼンする。
その中で更に新しい見どころを見つける。
(マジLOVEキングダムのたった2秒しかないあるシーンに、スタッフさんたちのこだわりを見つけた時の感動)

ツイで見た「世の流れ」でおかしいなと思ってることを堂々と言う。
(世の中にはSNSに書かなくてもよい、思うことがたくさんある)

そんなことを、普段と変わらずに話す。

ノンストップで4時間。とてもとても楽しかったです。


今のところお互い体調も変化なく元気で、こうして楽しい時間を共有出来てますが、何気ないこの時間が今はほんとにありがたいことだと思っています。
そして、元気ではありますが、話の端々で何やかや言ってもコロナのことで気を張り、見えないところでは結構しんどくなっている部分もあるな、と感じています。
推し(の中の人)がリアルに今動いて配信してくれてる、元気でいるのを知るだけでちょっと泣けてきますからね、お友達も私も。

家でじっとしていること自体はあまり苦ではないですが、今までと同じではないにしても、早く一定程度落ち着いて「現場」が戻ってきて欲しいと強く思ってるからこそ、自粛できている部分もあります。

早くお友達と直接会って、歌をハモりたい。いっぱい喋りたい。
推しのライブに参戦したい。その場で感想言い合いたい。

それまではたまに開催するオンラインオタ会で、心の栄養補給していこうと思います。

オラクルカードで見てみた【HE★VENS編】

 最後、ヘヴ編です。

ヘヴは各メンバーのバックボーンとかあんまり知らないので、やっぱり読み解くのが難しかったです…。でも劇場版のエゴ組MCでランランが瑛一に「大きな影に怯えてんじゃねえのか?」と言ってたのが何かあるのかなーとか、ヴァンくんはやっぱり喋って歌ってなんぼよね♡(オイ)とか、それぞれがあーなんとなくわかるーっていうカードが出て面白かったです。

 

【瑛一】TRANSFORMATION
Things are changing at a cellular level. Deep healing.

 

幼少期のトラウマや、何かを恐れて常に緊張状態にあった過去を捨てるとき。今するべきことを続けることで、変わり続けていく。大丈夫、あなたは愛されている。

 

【皇】PROTECTION
Call back your power. Cut the cords. Soul retrieval.

 

余計なしがらみを断ち切り、あなた本来の力を呼び戻して。周りに奪われるままにせず、自分の力を大切に、綺麗にしておくように心がけて。過去に力を失ったことがあるなら、その原因を確かめて綺麗にしておいて。

 

【ナギ】KEEPERS OF THE EARTH
You are not alone. Ancient ancestors stand beside you.

 

もしあなたを足止めしているものがあるとしたら、それは周りから助けを受けることに対する抵抗感。でも一人で頑張る必要はない。あなたが尽くしてきたからこそ、周りは今あなたを助けようとしている。

 

【瑛二】TRUST THE NIGGLE
What is the niggling feeling trying to tell you?

 

直感を信じて。小さな違和感を大切にして。おかしいと思ったことを隠したり、押さえつけたりしないで。ほんの些細な事でも、自分が感じた「おかしい」ということを疑わないで。

 

【ヴァン】SHARE YOUR VOICE
Come out of the cave. Persecution. Expression.

 

あなたの声を伝えて。書いたり、語ったり、歌ったりして自分を主張していって。その声は力強い音になって周りに届き、癒したり力になったりしていくから。今が、外へ向けていくその時。

 

【大和】MINTAKAN
Longing for home. Belonging. The original Lightworkers.

 

かつてあなたの故郷だったところはもうないかもしれないけれど、あなたが見つけた今の場所を生きていく場所にしていく。自分の力で自分の故郷を作れる。

 

【シオン】ANSWER THE CALL
What is your soul calling you to do?

 

魂の望むままに。不安や理解が難しいことがあっても、自分の中の声に耳を傾け、信じて、勇気をもって進んで。今のあなたにはそれができるから。

 

ちなみにまとめ(以下コピペ)。

44枚あるカードは以下5つのスートに分かれてて、

・確認→すぐに白黒つける

・質問→自分への問いかけ

・行動→行動を促す

・活性化→エネルギーや癒しをくれる

・伝達→メッセージを伝える

その出方がグループごとにまた面白くて。

 

どのグループも確認は出ず。
・スタリ:質問0行動2活性化2伝達3
→自分達から動いて働きかけていく。そして何かを伝えていく役割を背負ってる。内を振り返るより、外へ出していく傾向。

・カルナイ:質問3行動1活性化0伝達0
→常に自分達に問いかけをしている。周りに何かを伝えたいとかではなく、自分達はどうあるべきかが優先。
・ヘヴ:質問2行動1活性化3伝達1
→内へも外へもバランスよく誰かしらが役割を持っていて、その中でも周りへの力となる傾向がある。

みたいな。

私個人はやっててとても面白かったです!